読者を逃さない小説の書き出し・冒頭一文の作り方
冒頭で離脱される、という現実
小説投稿サイトの読者は、書籍を買った読者と違って「最後まで読む」という前提を持っていません。一覧に並んだ無数の作品の中から、冒頭の数行、場合によっては最初の一文だけを見て、読み続けるかどうかを一瞬で判断します。書き手にとっては渾身の一作でも、読者にとっては数ある候補のひとつでしかないという前提に立つと、冒頭にどれだけ力を割くべきかが見えてきます。
本文全体の完成度が高くても、冒頭で離脱されてしまえばその先を読んでもらえません。中盤や終盤の盛り上がりをどれだけ練っても、そこに読者がたどり着かなければ意味を持たないという点で、冒頭は物語の中でも特別に重い役割を背負っている部分です。
「状況説明」より先に「引っかかり」を置く
書き出しでやってしまいがちな失敗が、世界観や主人公の生い立ちを丁寧に説明することから始めてしまうことです。書き手は世界観を理解してもらいたい気持ちが先に立ちますが、読者はまだその世界に興味を持っていない段階なので、説明から入ると退屈に感じられてしまいます。
効果的なのは、状況の全体像を説明する前に、読者の頭に「これはどういうことだ」という小さな疑問を投げかけることです。謎めいた状況、意外な一言、緊迫した場面など、詳しい説明を後回しにしてでも「続きが気になる」感覚を先に作ってしまうと、読者は自然と読み進めてくれます。
書き出しのいくつかの型を知っておく
書き出しには、いくつかの定番の型があります。セリフから始めて状況を読者に推測させる型、事件が起きている最中からいきなり始めて後から経緯を説明する型、断定的な一文で世界観のルールを提示する型など、それぞれ効果が異なります。型を知っておくと、いざ書き出しに迷ったときに「今回はどの型で攻めるか」という選び方で発想を広げやすくなります。
どの型を選ぶにしても共通して言えるのは、説明のための一文よりも、読者の感情や好奇心を動かす一文を優先するということです。天気や日付から始める書き出しが弱くなりがちなのは、それ自体が読者の感情を動かさない情報だからです。
書き出しは一番最後に書き直していい
書き出しは、作品の中で最初に書く部分でありながら、実は最後まで書き終えてから見直すのが最も効果的な部分でもあります。物語を最後まで書き切ってはじめて、その作品が本当は何から始まるべきだったかが見えてくることは珍しくありません。最初に書いた導入部が、実は3ページ目から始めた方が引き込みが強い、ということもよくあります。
最初の草稿の書き出しに執着しすぎず、「今はとりあえず書き進めるための仮の書き出し」と割り切っておくと、冒頭で立ち止まって執筆全体が止まってしまう事態を避けられます。
一覧画面では冒頭しか見えていない
投稿サイトの作品一覧やランキングページでは、多くの場合タイトルとあらすじ、そして本文の冒頭数行だけが表示されます。つまり読者が実際に目にしている「サンプル」は、書き手が想像しているよりもずっと短い範囲です。この事実を意識すると、冒頭のどの一文までに読者の心をつかむ必要があるかが、より具体的にイメージできるようになります。
モノ書きでの使い方
書き出しを何パターンか試したいときは、章・シーンのツリー構造を使って候補ごとに別のシーンとして書き出しておくと、本文を崩さずに複数案を見比べられます。気に入らなかった案は削除せずそのまま残しておき、あとから読み比べて選ぶという使い方もできます。また、書き直すたびに前のバージョンが失われるのが不安な場合は、バージョン履歴機能でいつでも以前の書き出しに戻せるので、思い切って書き直しを試しやすくなります。