『竹取物語』第2回:五人の求婚者、三つの難題
五人の貴公子と、かぐや姫が出した条件
美しく成長したかぐや姫のもとには、数多くの求婚者の中でも特に熱心な五人の貴公子——石作皇子(いしつくりのみこ)、車持皇子(くらもちのみこ)、右大臣阿倍御主人(あべのみうし)、大納言大伴御行(おおとものみゆき)、中納言石上麻呂(いそのかみのまろたり)——が、夜も昼も通い続けて求婚します。困り果てた翁がかぐや姫に結婚を勧めると、かぐや姫は「それぞれが私の望む品物を持ってきてくださった方になら、お仕えしましょう」と答えます。
そしてかぐや姫は五人それぞれに、異なる宝物を持ってくるようにと難題を出します。石作皇子には《仏の御石の鉢》(ほとけのみいしのはち)、車持皇子には《蓬莱の玉の枝》(ほうらいのたまのえだ)、阿倍御主人には《火鼠の裘》(ひねずみのかわごろも)、大伴御行には《龍の首の珠》(たつのくびのたま)、石上麻呂足には《燕の子安貝》(つばめのこやすがい)です。いずれも実在しないか、この世のものとは思えないほど入手が困難な品ばかりで、かぐや姫自身、求婚を体よく断るための口実としてこれらを選んだことがうかがえます。
石作皇子と「仏の御石の鉢」
一人目の石作皇子に課されたのは、天竺(インド)にあるとされる、お釈迦様が使っていたという石の鉢を持ち帰ることでした。本物を手に入れるには天竺まで渡らねばなりませんが、石作皇子はそのような長旅に出ることなく、三年ほど身を隠したのち、大和国のとある山寺にあった、すすで黒く汚れた鉢を手に入れ、それをもっともらしい作り話とともにかぐや姫のもとへ持参します。
しかしかぐや姫は、本物の仏の鉢であればそれ自体がほのかに光り輝いているはずだと見抜いていました。差し出された鉢を見ると、蛍ほどの光さえ見当たりません。偽物だと確信したかぐや姫は、鉢を突き返してしまいます。面目を失った石作皇子は、その鉢を家の門の前に捨てて立ち去ったといい、ここから「恥を捨てる」という意味で《鉢を捨てる》という言葉が生まれた、という言葉遊びのような一節が添えられています。
車持皇子と「蓬莱の玉の枝」——偽物作りの顛末
二人目の車持皇子に課されたのは、東の海上にあるとされる蓬莱山に生えているという、根が銀、茎が金、実が真珠でできた枝を持ち帰ることでした。車持皇子は五人の中でもとりわけ策略に長けた人物で、周囲には「船で旅に出る」と偽りの噂を流しつつ、実際には身を隠し、腕利きの職人をひそかに集めて、本物そっくりの玉の枝を作らせます。
三年がかりで精巧な偽の玉の枝を完成させた車持皇子は、いかにも苦難の末に蓬莱山から持ち帰ったかのような作り話を添えて、自信満々にかぐや姫のもとへ持参します。あまりの出来栄えに、翁もかぐや姫も一時はすっかり信じかけてしまいますが、そこへちょうど、玉の枝を作った職人たちが「約束していた工賃が支払われていない」と催促にやって来てしまいます。この一件によって、玉の枝が職人の手による偽物だったことが露見し、車持皇子の嘘は白日の下にさらされてしまいました。
右大臣阿倍御主人と「火鼠の裘」
三人目の右大臣阿倍御主人に課されたのは、火の中に入れても燃えないとされる、火鼠(ひねずみ)の毛皮で作った衣を持ち帰ることでした。阿倍御主人は、唐(中国)から来た商人に大金を払い、火鼠の皮衣と称する品を手に入れます。
しかしかぐや姫は、本物であれば火に入れても燃えないはずだと見抜き、贈られた衣を実際に火の中へ投げ入れて試すよう求めます。結果、その衣は炎の中であっという間に燃え尽きてしまい、偽物であったことが証明されてしまいます。大金を払って手に入れた品が燃えてなくなる様子を目の当たりにした阿倍御主人の落胆は大きく、ここから、思い通りにならず落胆する様子を表す《あへなし》(阿倍の「あへ」と、効果がない意味の「なし」を掛けた言葉遊び)という表現が生まれたとされています。
三者三様の失敗が意味するもの
三人に共通しているのは、本物を求めて困難な旅に出るのではなく、偽物や贋作によって短絡的に難題を乗り切ろうとした点です。石作皇子は粗末なすり替えで、車持皇子は精巧な偽造で、阿倍御主人は商人からの偽りの買い物で、それぞれ異なる形の不誠実さを見せています。そのいずれもが、かぐや姫自身の確かな目利きと、思わぬ偶然(工賃を催促に来た職人の登場など)によって見破られてしまうという、滑稽みのある結末を迎えます。
次回は、残る二人の貴公子——大納言大伴御行と中納言石上麻呂——が挑んだ、命がけの難題の顛末を詳しく見ていきます。
参考文献
室伏信助(訳注)『新版 竹取物語―現代語訳付き』角川ソフィア文庫、2001年
角川書店(編)『竹取物語(全)』角川ソフィア文庫 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典、2001年
Japanese Text Initiative, University of Virginia Library「竹取物語 Taketori monogatari」: https://jti.lib.virginia.edu/japanese/taketori/
The Ohio State University「竹取物語 Taketori Monogatari」: https://cjp.asc.ohio-state.edu/books/taketori-monogatari/about